TOPIC KUNISHIMA TRAD 02 2021.03.19 UP

“自分の色”をもつこと。

KUNISHIMAトラッド
スペシャル鼎談 Vol.1

鴨志田康人(オフィスカモシタ代表取締役) ×
中野香織(服飾史家) ×
河合正人(『The three WELL DRESSERS』
プロデューサー)

国島が提唱する、わが国における新しい「トラッド」を、様々な角度から追求していく本ページ。
今回は河合正人さんがプロデュースを手がけたファッション書籍、
『The three WELL DRESSERS』でフィーチャーされた、日本を代表するウェル・ドレッサー、
鴨志田康人さんが登場。服飾史家の中野香織さんが、そのトラッド観に迫ります。

国島が提唱する、
わが国における新しい「トラッド」を、
様々な角度から追求していく本ページ。
今回は河合正人さんが
プロデュースを手がけたファッション書籍、
『The three WELL DRESSERS』で
フィーチャーされた、日本を代表する
ウェル・ドレッサー、鴨志田康人さんが登場。
服飾史家の中野香織さんが、
そのトラッド観に迫ります。

撮影協力/AUCXCA TRUNK
クニシマトラッド 写真1 クニシマトラッド 写真1

中野香織さん(以下中野):スーツ離れと言われる昨今ですが、実はいまだに日本は世界で最もスーツ人口が多い国なんです。でも最近は“ワークウエア”を謳った機能性スーツや、量販店による“パジャマスーツ”など、なんでもありという状況で、ある意味日本人の創意工夫には感心してしまいます。鴨志田さんは、これからのスーツについてどうお考えですか?

鴨志田康人さん(以下鴨志田):オーセンティックなスーツは自分も大好きだし、これからも大切にしていきたいと思っていますが、いわゆるビジネスシーンにおけるスーツのマーケットは縮小していくでしょう。しかし決してなくなることはありません。ビジネスというより、もっと社交的な存在……“ハレ”のスーツになっていくと思います。ならば、もっと楽しいものをつくらないとダメじゃないかな、と。

中野:もっと若い人たちにスーツを着てもらいたいなと願っていますが、鴨志田さんの世代に続くような、「格好いいスーツ」のロールモデルになる、若い人たちが育っていないような気がします。

河合正人さん(以下河合):台湾などアジアの若い男の子たちの間で、スーツが今流行っているじゃないですか。スーツの伝統をあまり気にしない彼らは、単純に格好いいから着ているだけなんですよね。

鴨志田:日本でもこれから“制服”としてのスーツが着られなくなるでしょうから、そうなると「スーツって格好いいな」と逆に思われるでしょうね。なんでもそうですけど、格好よくなければ廃れるんですよ。マンネリ化したビジネススーツが姿を消せば、逆に若い人が興味をもつ可能性があります。

中野:なるほど、それは希望ですね。義務的に着るものではなく、〝着たい〟という衝動に応えるスーツこそが生き残る、と。ただ、今の若者たちはスーツに存在する様々なルールを知らずに、間違った着こなしをしていることも多いですよね。鴨志田さんのような方に教えてもらえると、とても喜ぶんじゃないですか?

鴨志田:いますよね。HIP HOPの文脈なのか、袖口に生地のラベルをつけている人とか(笑)。今の若者は、私たちのようにアイビーの洗礼を受けていませんから、着こなしがデタラメだったりするんです。でも、あまり教条主義的にならずに、まずは興味を持ってもらえることが大切だと思います。そこからもっと深く知ろうという人が必ず現れると思いますから。なので私は意外と楽観視しています(笑)。

クニシマトラッド 写真2 クニシマトラッド 写真2

中野:最近のスーツスタイルでは、ネクタイを締めない装い方も多いと思いますが、そのときのポイントなどあれば、教えてください。

鴨志田:スーツという洋服は、そもそもネクタイを締めてはじめて完成するようにできているんです。だからみんなノータイを簡単に考えがちですが、逆にレベルは高いんです。ノータイにするならば、スーツはコットン、ツイード、コーデュロイといったカジュアルな生地であるべきだし、もしくはジャケパンにするべきです。ウーステッド、ましてやストライプ生地でノータイなんてありえません。最近のメディアでは「ボタンダウンならOK」とか優しくいう人もいますが、自分は正直いって、そこに対する答えは持っていませんね。

河合:面倒くさがらず、ちゃんと着替えないといけないですよね。ただネクタイを外すだけでは、くたびれたおじさんになってしまう。

中野:なるほど。では、はじめてビスポークでスーツをつくろう、という方は、どのような生地を選べばよいでしょうか?

鴨志田:自分にとってベーシックになるものを選んでほしいですね。みんなビスポークだからといって、頑張って特別な生地を選びがちですが、そんな必要はありません。ビスポークスーツは、その美しい仕立てやフィット感だけで、あきらかに既製服とは異なったオーラを放ちます。ですから生地は、いつも既製服で着ている色柄で構わない。むしろそのほうが格好いいと思います。それこそが自分に似合う、もっとも自分らしいスタイルということですから。

中野:それは明快で力強いアドバイスですね!

鴨志田:私のような仕事と違って、ビジネスで毎日スーツを着られる方なら、なおさら“自分の色”をしっかり持つべきだし、そういう人こそがウェルドレッサーだと思います。自分や、自分をよく見せる術を知っているという意味で。

中野:そういった意味で、“日本最古の機屋”国島の生地にはどういう印象を持たれましたか? 

鴨志田:尾州のよいものを長年発信している、真面目な会社ですよね。この厳しい世界の中、COBOのようなブランドをつくろうとする企業努力にも感銘を受けます。英国やイタリアに倣うのではない、日本ならではの強みを生かした“攻めた”生地をどんどんつくっていけば、世界で戦っていけるだけのクオリティは持っていますよ。

クニシマトラッド 写真3 クニシマトラッド 写真3

中野:昨年河合さんが発表された書籍『The three WELL DRESSERS』を拝見しました。登場するお三方は、どういった基準で選ばれたんですか?

河合:海外でもリスペクトされる、日本が誇るウェルドレッサーを、世代で切り取ったら単純に面白いな、という発想でした。また、VAN=アイビー・トラッドという要素を軸にすると、“影響を受けなかった”白井俊夫さん、“供給する側にまわった”鈴木春生さん、“その影響のもとで洋服好きになった”鴨志田さん、という具合にきれいに分かれるんですよ。

中野:鴨志田さんは美術を志していたとのことですが、色の使い方、とくにブラウンの表現がずば抜けていますよね。

河合:日本の大人の装いにブラウンを再認識させたのは、鴨志田さんの功績が大きいですよね。

鴨志田:ブラウンは海外のウェルドレッサーのワードローブには昔から存在するもので、私はそれに憧れて着ていただけ。別に自分がどうこうしたとは思っていないんですけれど(笑)。

中野:ここに登場するお三方、とくに鴨志田さんの装いは、ラグジュアリーそのものなんです。単なる贅沢ではなく、エイジレスで、リラックスしていて、エゴがなく、周囲との関係がちゃんと保たれている、という意味におけるラグジュアリー。

鴨志田:いえいえ、それは言い過ぎでしょう(笑)。でも、国島さんが、そういう生地コレクションを目指していかれるのであれば、ぜひ応援したいですね。

Interview, Text, Photo : Eisuke Yamashita
BOOK The three WELL DRESSERS

The three WELL DRESSERS
白井俊夫・鈴木晴生・鴨志田康人
――3人の着こなし巧者の軌跡

倉野路凡(著)、大川直人(写真)

日本を代表するウェルドレッサーとして海外からも注目を集める3人の紳士、
白井俊夫氏、鈴木晴生氏、鴨志田康人氏。
河合正人氏のプロデュースのもと彼らの装いと人生の軌跡を丹念に追いかけた本書は、
魅力的な男になるためのファッションとカルチャー、
そして生き方をも学べる究極のスタイルブックである。

日本を代表するウェルドレッサーとして
海外からも注目を集める3人の紳士、
白井俊夫氏、鈴木晴生氏、鴨志田康人氏。
河合正人氏のプロデュースのもと彼らの装いと人生の軌跡を
丹念に追いかけた本書は、
魅力的な男になるためのファッションとカルチャー、
そして生き方をも学べる究極のスタイルブックである。

BOOK

河合正人

京都府生まれ。1986年に河合正人花事務所を設立し、
フラワーコーディネーターとして活躍。
2000年代後半からは、写真集『JAPANESE DANDY』に代表される
ファッション書籍のプロデューサーとしての活動も開始。
2020年にプロデュースを手がけた『The three WELL DRESSERS』(万来舎)が
大好評発売中。

京都府生まれ。1986年に河合正人花事務所を設立し、
フラワーコーディネーターとして活躍。
2000年代後半からは、写真集『JAPANESE DANDY』に
代表されるファッション書籍の
プロデューサーとしての活動も開始。
2020年にプロデュースを手がけた
『The three WELL DRESSERS』(万来舎)が
大好評発売中。

鴨志田康人

東京生まれ。多摩美術大学卒業後、「ビームス」を経て「ユナイテッドアローズ」の立ち上げに参画。
クリエイティブディレクターとして同社の隆盛を支える。
2018年には自身の会社を設立。2007年に立ち上げたブランド「カモシタ」のほか、
「ポール・スチュアート」の日本におけるディレクターとして活動する。

東京生まれ。多摩美術大学卒業後、「ビームス」を経て
「ユナイテッドアローズ」の立ち上げに参画。
クリエイティブディレクターとして同社の隆盛を支える。
2018年には自身の会社を設立。
2007年に立ち上げたブランド「カモシタ」のほか、
「ポール・スチュアート」の日本における
ディレクターとして活動する。

中野香織

服飾史家 / 昭和女子大学客員教授
日本経済新聞、読売新聞、Forbes Japanはじめ多媒体で連載記事を書くほか、企業のアドバイザーを務める。
著書『「イノベーター」で読むアパレル全史』(日本実業出版社)、
『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)など。
東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学特任教授を務めた。

服飾史家 / 昭和女子大学客員教授
日本経済新聞、読売新聞、Forbes Japanはじめ
多媒体で連載記事を書くほか、企業のアドバイザーを務める。
著書『「イノベーター」で読むアパレル全史』
(日本実業出版社)、
『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』
(吉川弘文館)など。
東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。
ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学特任教授を務めた。